三重の“今”を刻む人を追いかける「ミエタイマー」。
第4話の主人公は、三重県名張市にある就労支援B型事業所「ステップアップ」で、サービス管理責任者を務める中森由維(なかもり・ゆい)さんです。
「支援って、“何かをしてあげること”じゃなくて、隣に立ち、一緒に歩くことだと思うんです。」
そう語る中森さんの言葉には、“正解がない世界”に向き合う、確かなまなざしと、静かな情熱がありました。
「対話」から始まる支援
中森さんが「福祉」という仕事に出会ったのは、学生時代。
福祉を学び、社会人としてのキャリアも、障がい福祉の分野から始まりました。
現在は、「ステップアップ」という就労支援B型事業所で、サービス管理責任者として、個別支援計画の作成や面談、利用者の心身のケア、他機関との連携など、施設の中核を担っています。
その中で、中森さんが一番大切にしていること。
それは、「話を聞くこと」。

「たとえ1時間のうちに10分しか話せなかったとしても、“その人がどう感じているか”“何を考えているか”を受け止める時間を大事にしています。言葉にならない部分も含めて、“対話”だと思っているんです。」
支援は、一方的な「指導」ではない。
その人の生活背景や心の状態にまで耳を澄ませ、「その人らしさ」が少しずつ表れてくるように、静かに寄り添う──。
それが、中森さんの支援の原点です。
働くことが「目的」ではなく「手段」であっていい
就労支援B型事業所は、障がいや体調の波などで一般就労が難しい方に対して、作業や訓練の場を提供しながら、その人に合った働き方を探す場所です。
でも、中森さんは言います。

「“働く”というのは、必ずしも“就職すること”だけじゃないと思っています。“ここに来られるようになった”“週に何回か外出できるようになった”──そういう変化も、“その人らしく生きる”ための大きな一歩です。」
中には、朝起きることさえ難しい日がある利用者もいます。不安が強くて、人と会うことに勇気が必要な人もいる。
それでも「今日は来られた」という事実に、きちんと意味を見出す。
「“週5日通うのが正しい”という発想ではなくて、“その人にとってちょうどいい”ペースを一緒に探していきたいんです。」
中森さんはそう語ってくれました。
「がんばらなくても、ここにいていい」そんな場所を
「ステップアップ」の目指すところは、まさに“安心できる居場所”。
「頑張れない日もあっていいし、無理に笑わなくてもいい。でも、来れば誰かがいて、必要な時に手を差し伸べてくれる。そういう“居場所”であることが、まず一番大事だと思っています。」
時には体調を崩して休む利用者もいる。
感情のコントロールが難しくなる日もある。
そんなとき、中森さんは「何があっても否定しない」ことを心がけています。

「怒ってしまったって、泣いてしまったって大丈夫。それでも“また来たい”って思ってくれたら、そこからまた始められると思うんです。」
来ること」そのものに意味がある。
何も生産的なことができなくても、何も話せなくても、「ここにいること」が尊重される場所。ステップアップは、そんな安心感に包まれています。
支援者としての“あたりまえ”を疑う
福祉の現場では、専門職としての知識や経験も求められます。
でも、長く働くほどに「慣れ」が生まれてくるのも事実。

「“こうすればうまくいく”というパターンに頼りすぎてしまうと、その人の声を聴く耳が、少しずつ鈍くなる気がするんです。だから私は、“支援する側のあたりまえ”を、常に疑うようにしています。」
「本当に、この人にとって必要なことって何だろう?」
「この言葉は、ちゃんと届いているかな?」
支援者である前に、一人の人間として。
目の前にいる人の声に真剣に向き合う姿勢が、中森さんの大きな強みです。
「この仕事が好き」だから、続けたい
「大変なことはいっぱいあります」と、中森さんは率直に話してくれました。
相手の思いが見えなくなったり、支援の方向性に迷ったり、感情的なやりとりに疲弊してしまうこともある。

「でも、やっぱり好きなんです、この仕事。“ありがとう”って言ってもらえたときはもちろん、ほんの少し表情がやわらいだだけでも、“よかったな”って思えるんです。」
相手に変化が見えるまでには、長い時間がかかることもある。
それでも、あきらめず、離れず、待ち続ける。
それが、支援の現場に生きる人の“強さ”なのかもしれません。
「ここから、また始めてみよう」そう思える場所でありたい
ステップアップには、利用者だけでなく、家族や支援機関、市役所など、さまざまな人が関わっています。
中森さんは、そうした「つながりの中での支援」を大切にしています。

「一人で支えきれないことって、たくさんあります。でも、いろんな立場の人と一緒に考えられると、“あ、この人はこうやって支えていけるかも”という道が見えてくるんです。」
利用者本人の想いと、周囲の関係者の想い。
それぞれの立場を尊重しながら、丁寧にバランスをとっていく。
それが、「誰ひとり取り残さない福祉」の第一歩なのかもしれません。
最後に、中森さんからひとこと

「“働けない”って、自分を責めてしまう方もいるかもしれません。でも、そうじゃないんです。
“今は難しい”だけで、“これから”はきっと変えていける。誰にでも、ゆっくり進める道があります。一人で頑張らなくていい。誰かと一緒に、“今できること”から始めていけたら嬉しいです。」
中森さんからの言葉から、本当に利用者のことを第一に考えているのだと伝わりました。
ミエタイマーが活躍する場所
お店名
就労継続支援B型事業所ステップアップ名張事業所
住所
三重県名張市元町376 イオン名張店 3F
電話番号
0595-48-5370
ホームページ
営業時間
10:00〜16:00
定休日
土日祝
アクセス
編集後記(ミエタイムより)
「支援者」と聞くと、何か特別な力を持った存在のように思いがちです。
でも中森さんは、違いました。
迷いながら、悩みながら、それでも「一緒にいたい」と願う人。誰かを導くよりも、そっと隣にいてくれる人。
その姿に、福祉の本質が詰まっているように感じました。
「働くこと」も、「生きること」も、答えは一つじゃない。でも、ひとりでは見えない道も、誰かとなら見えてくる。
ステップアップという場所が、“また一歩進んでみようかな”と思えるきっかけになってくれたら──。
中森さんの静かな熱意は、名張のまちで、今日も誰かの背中をそっと支えています。